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自重できなかった人の何かの捌け口
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宮川くん(29)、大林くん(31)シリーズ(?)
もう付き合ってる

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盛夏を目前に、凶暴さを秘めた日差しがじりじりとハードコートを灼きつける。
QF。8ゲームマッチ。スコア7-4。ポイント15-40。レシーバーのマッチポイント。
その、張りつめた空気に満ちたコートを、宮川はフェンスの外側から眺めていた。そこには、宮川より二つ年上の先輩がラケットを構えている。
息を潜めるようにして見つめている宮川とは裏腹に、周りにいる人々、そのほとんどは女性だが、彼女らは声を押し殺してはいるものの、きゃあきゃあとはしゃいでいる。最近はフェンスの内側にいることが多かったので忘れていたが、そういえばこちら側の空気というのは、こんな風に甘ったるいものだったことを思い出す。今日のように、男女共催の場合は特に。
宮川は、時折自分にも向けられる視線に気付かない振りをして、試合の行方を見守った。
ファーストサーブをフォルトしてのセカンドサーブ。ワイドに入ってきたスピンは、しかしコースが甘かった。難なくリターンを返し、このタイミングで前に出る。いくらボレーヤーだからとはいえ、それは無謀な戦略に思えた。しかし、逆に相手の意表を突く形となる。インパクトの直前にコースを変えようとした相手のボールは、ネットを越えることなくコートへと落ちる。
結果を見届けた後、試合終了を告げる審判のコールを聞きながら、宮川は足早にコートの出入口へと向かった。無論、先輩の勝利を讃えるためにだが、その他にもう一つ。
フェンス際で選手たちが出てくるのを待っていると、宮川が声を掛ける前に気付いたらしい。先輩の方が、宮川の元へと近付いてくる。
「わざわざ来てくれたのか。みっともないとこ見せないで済んで良かったよ」
試合直後だというのに疲れた様子も見せず、先輩、大林が笑ってみせる。
「何言ってんの。結構余裕あったみたいじゃん。最後のプレーとか、普通やらないでしょ」
「いや、お前が見てることに気付いたからさ、少し格好つけようと思って。あれで抜かれてたら恥ずかしかったけどな」
そんな風に、さらっと言ってしまうのが本当にずるいと思う。
「そんなことしなくてもカッコイイから」
これ以上、目立たないでよ、とは言わずに留め、冗談めかして宮川は笑う。
「今日の試合だって、女の子たちがいっぱい見に来てたよ。良さん、少しは自覚した方がいいって」
学生時代から宮川の知る限りでさえ、少なくとも一ヵ月に一回は何かしらのアプローチを受けていたというのに、この人にはまるでその自覚がない。だからこうして、変な虫が付かないように僕が気をつけなきゃならないんでしょ、とは、やはり言わずに、宮川は溜息をついた。
すると大林は、不思議そうな顔で宮川を見つめる。
「いや、ギャラリーは結構いたとは思ったけど、それって俺じゃなくてお前目当てじゃないのか?ツアーでも優勝経験あるし、雑誌にだって結構載ってるだろ?」
「僕が着いたときには、もうかなりの人がいましたー」
呆れ声で宮川が言うと大林は、そうか、と呟く。
「でも、誰に見られてたとしても関係ないからな」
「まあ、試合中は集中してるもんね」
「それもそうだけど……誰かに声をかけられたとしても、パートナーは間に合ってるから」
ごく自然にそう言って、大林は微笑んだ。
宮川は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに大きく息を吐いて大林を見つめる。
「ねえ良さん、キスしていい?」
「なんだよ、いきなり……」
大林は、心底呆れたような口調で呟く。
「えーっと……マーキング的な?」
「お前は犬か……」
大きな溜息をつく大林に、宮川は口を尖らせる。
「良さんの傍に居られるなら、犬だっていいもん」
「こんな大型犬は飼えないな」
即答されてへこむ宮川を見つめながら、大林が苦笑する。
「それより俺は、一緒に夕飯食ってくれる人の方が欲しいんだが」
「あっ、はい!お祝いを兼ねて僕が奢ります!」
先程とは打って変わって元気に答えた宮川に向かって、大林が言う。
「今日は家でゆっくり飯を食いたい気分なんだ。奢らなくていいから、飯作るの手伝ってくれるか?」
「えっ……あっ……うん!良さんのためなら何でもするよ!」
勢いよく答えた宮川にまた苦笑しながら、じゃあ帰るか、と大林が声を掛ける。
それから二人は、クラブハウスに向かって並んで歩き出した。
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