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自重できなかった人の何かの捌け口
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池逞。某所SSの続きのような…











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「タクマさんさぁ、十歳のときの神奈川ジュニアの決勝、覚えてる?」
試合を終えた逞がシャワーを浴びていると、逞とほぼ同時に隣のブースに入った池が、唐突に話しかけてきた。
「……そんなの覚えてるかよ」
一瞬の間を置いてから答えた逞に、池は即座に「ウソだね」と返してくる。
「あのとき、俺に負けたら爽ちゃんって呼ぶって言ったのにさー、タクマさん結局呼んでくれないよね」
恨みがましげに呟く池に、逞は仕方なく口を開いた。
「あれは、あのときだけの話だろ。実際、俺が勝ったし」
「ホラ、やっぱり覚えてるじゃん」
隣の水音が消え、程なくブースの外からじっと見つめられているような気配がした。
逞がそれに気付かない振りをしていると、池のわざとらしい溜息が聞こえてくる。
「俺はあのときから、ちゃんとタクマさんのこと『さん』付けして呼んでるのになー。タクマさんは約束守らないんだー。酷いなー」
「…………」
「そうやっていつもカッコつけるくせに、いざとなったときにやることやらないから、ナツも取られちゃったんだよなー」
「……それ、関係ねーだろ」
思わず反応して振り向けば、にやにやと笑った池と目が合った。逞は小さく舌打ちして、顔を背ける。
「自覚、あるんだ?」
「…………」
ほんの少し前、嫌というほど思い知らされたことを何故か池に見透かされ、逞は内心驚いた。しかし顔には一切出さず、無視を決め込む。
黙々とシャワーを浴びてブースから出ると、どうやら逞を待ち構えていたらしい池が近付いてきた。進路を塞ぐように立ちはだかった池を、逞は黙ったまま睨みつける。しかし憎らしいことに、池は逞の様子を気にすることもなく、何故か満面の笑みを浮かべ、逞を見上げていた。
「ま、俺はいつまでも待ってるからさ、タクマさん」
そう言って、あまつさえ片目を瞑ってみせる。
池が呼び方一つにどうしてそんなに拘るのか、逞にはさっぱり理解できなかった。だが普段から何を考えているのかわからない池のことだ。逞の考えの及ばない、そうする理由が何かあるのだろう。
「勝手にしろよ」
逞はそう言い置いて、ロッカールームへと歩き出した。するとその後を、池が追ってくる。
「ちょっと待ってよ、タクマさん!」
不意に声を上げた池の言葉に、逞はふと引っかかるものを感じた。どんなときにも立ち止まりすらしなかった池が、今まで他人を待っていたことがあっただろうか、と。
だが逞にとって、そんなのはどうでもいいことだった。
逞は足を止めることなく、ロッカールームへと向かって行った。すぐ後ろで、いつまでもくだらないことを話しかけてくる池の声を聞き流しながら。
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