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自重できなかった人の何かの捌け口
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景凰(20)ってことでひとつ。











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試合開始時刻一時間前。凰壮は試合会場を抜け出して、近くの緑道を歩いていた。
会場の中は熱気に溢れていたが、流石にここまで来るとそれほど人気 はない。凰壮はその場に立ち止まると、徐に小脇に抱えていたサッカーボールを足元に放り投げた。ボールが地面に落ちる前に足の甲で掬うように受け止め、そ のままリフティングを始める。柔道着でのリフティングの感覚にも大分慣れてきて、今では以前と同じようにいつまでも続けられるようになっていた。
試合前のリフティングは、始めの頃から凰壮がずっとやっているリラックス法だ。初めての試合の時、珍しく緊張していた凰壮に、竜持がボールを投げて寄 越したのが切っ掛けで始めた。それ以来、試合の直前になると、凰壮はこうしてリフティングをする。人目に付くところでやっていると奇異の目を向けら れることも多いが、試合前の緊張感に比べたらそんなものは些細なことだ。
そして、今日もまた黙々とボールを回していると背後から聞き慣れた声がした。
「オウ。」
凰壮は振り返ることなく、声の方へとボールを蹴り出した。ぱしっと乾いた音を立てて、ボールは声の主の手の中に納まる。凰壮はその様子を不満気に見つめた。
「キーパーでもねえのに手を使うなよ。」
苛立ちを隠さずに文句を垂れた後、凰壮は男にボールを寄越せと目配せする。だが、ボールを手にした男は何も言わずに近付いてきた。そして、ボールを渡す代わりに凰壮の頭をぽんと軽く叩く。
「もうそろそろ時間だよ。僕は待ってるから、決勝頑張れよ。」
そう言うと、男はボールを抱えたまま踵を返した。
その態度にむっとした凰壮は、小走りで男の前に回り込むと、両手でシャツの襟首を掴み、自分の方へと引き寄せる。その勢いで軽く唇を押し付けると、突き放すようにして手を離した。
「お前に言われなくたって、代表くらいなってやるよ…!」
凰壮はそう言い捨て、会場へと向かって走り出す。

柔道軽量級オリンピック代表選考会。決勝まで、あと30分。
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