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自重できなかった人の何かの捌け口
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帰国後峰花。

峰さんは意外といい人だと思う、よ。











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九月も半ばを過ぎたというのに一向に秋の気配など感じられない。ビールが旨く感じるから好都合だが、などと的外れなことを思いながら花島は汗の滴るジョッキに口を付ける。
学生時代に行きつけだった定食屋兼居酒屋は実に居心地がよく、カウンター席の一番奥に陣取りながら、当時から好んで食べていた肉じゃがを摘む。このまま適度に飲み食いして、帰ってそのままベッドに倒れ込めれば言うことないのだが、そうはいかないから世知辛い。しかし、満更付き合いだけの飲みでもないので、花島としては気が楽だ。飲み代は相手に払ってもらうつもりでビールの追加を頼み終えた時、丁度、待ち人が姿を見せた。
「いやぁ、遅れてすまん!仕事が立て込んでてな…待ったか?」
悪びれた様子もなく、そう言いながら隣に腰を下ろしたのは、かつてのチームメイトであり、今日花島を呼び出した当の本人である峰だった。花島が返答する間もなく「生と枝豆、」と注文しつつ、女将と話を始める辺り、昔と全く変わりない。今更思うところもなく、花島が新しく運ばれてきたジョッキを傾けていると、話に一段落した峰がようやく腰を落ち着けて、ジョッキを手にしていた。
「なんだよ、乾杯もなしに先に飲むなよ。」
どこまで本気なのかわからない口調で峰は言うと、花島の手にしているジョッキに自分のジョッキを当てた。それから一人で乾杯と呟くと、一気に飲み干す。空いたジョッキを豪快にカウンターに叩き付けるように置くのも、昔と変わりなかった。
「で、今日は何の用だよ?」
何故か些かの苛立ちを覚えながら花島が単刀直入に訊くと、峰は「いきなりかよ、」と笑ったが、花島の問いに答える前に、追加の注文をし始めた。しばしの後、いくつかのつまみと、新しいジョッキがカウンターに並ぶ。峰は新しいジョッキを手にすると、一口だけ飲んでカウンターに置いた。
「そういえば、お前いま何やってんの?」
峰の頼んだ揚げだし豆腐に気を取られていた花島は、ごく自然に「あいつらのコーチだけど、」と答えて、我に返った。そんな話をするために呼び出されたわけじゃないことくらい、わかっている。だから花島は回りくどいことは一切なしにして、さっさと帰るつもりでいた。なにせ、明日も早朝から練習の予定が入っている。
「そんなことはいいから…」
「この間、たまたま永渕さんに会ったんだけど、サンダーボルツのセレクション受けろって言われてるらしいな。」
花島の言葉を遮って、峰がまたどうでもいい話題を口にする。多少の違和感を覚えつつ花島が「まぁな、」とだけ答えると、峰は「そうか、」と呟いて、ジョッキの残りを一気に空けた。
「それで、用件はなんだって…」
ジョッキを置いたタイミングで花島がそう言うと、峰は肩を竦めてみせる。
「ん?別に、用事があったわけじゃないさ。スペインで散々暴れてきた肉食獣のボスが、何をしてるのかちょっと気になっただけでね。」
「なんだよ、それ。俺はてっきり協会から何か言われるのかと思ってたのに…」
花島が盛大に溜息を吐くと、峰は笑いながら豪快に花島の背中を叩いた。
「お前みたいな問題児にわざわざ絡みにくるわけないだろ。ただでさえ、コッチは忙しいってのに…」
かなり酷い言われようだが、事実だから怒りも湧かない。花島は「そうだよなぁ、」と呟くと、すっかり泡のなくなったビールを口にした。
「さて、そろそろ俺は帰るよ。」
峰が急にそう言い出して、立ち上がった。花島が慌てて立ち上がろうとするのを制して、峰が笑う。
「お前はゆっくりしていけよ。あ、ここの勘定は俺が持つから。」
そう言うと、女将と二言三言交わして、峰はあっさりと店を出て行った。
一人残された花島は釈然としないまま、すっかり冷めた肉じゃがを頬張った。後味をビールで消そうとジョッキを持ち上げて、もう残りがわずかなことに落胆する。
奢ってもらえるなら、もう一杯頼んでおくんだったな。
そんなことを思いながら、花島は最後のビールを流し込んだ。
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